英語・フランス語・ポルトガル語な日々………そしてドイツ語が加わる

時に必要にせまられ、時に興味からいくつか言語を勉強しています。

今時のフランス語事情・trop pour très

 

何時の頃から、こういう言い方が使われるようになったのか。

最近のソーシャルメディアでも、もう市民権を得たかのように使われるようになった、というより、もしかしたらそのソーシャルメディアからそのような使われ方が拡がったのか。

~それが

"très"の代わりに頻繁に使われるようになった"trop".

  • 可愛い動物を見て、

Ah, il est trop mignon!! (Il est très mignon/Il est vraiment mignonなどの代わり)。

  • 美味しいものを食べて、

C'est trop bon!! (C'est très bon/ C'est délicieuxなどの代わり)。

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本来、trèsは強調を表し(英語のvery)、tropは「~すぎる」という過剰の意味を表すもの(英語のtoo)と自分は理解していました。

Il fait trop chaud. (暑すぎる) Il fait très chaud. (とても暑い)
C'est trop cher. (高すぎる) C'est très cher. (とても高い)
Tu marches trop vite. (君は歩くのが速すぎる) Tu marches très vite. (君はとても速く歩く)…等々
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これから、tropにはほぼ必然的に否定のニュアンスが含まれる。

 

  • Ce chapeau est très cher. ⇒ Mais, je vais l'acheter quand même parce qu'il me plaît. 

   (この帽子はとても高い。でも気に入ってるから買おう。)

  • Ce chapeau est trop cher. ⇒Je ne peux pas me permettre de l'acheter.

   (この帽子は高すぎる。自分には買えない。)

  • Cette pizza est trop mauvaise.⇒ Je ne peux donc pas la manger.

 (このピザは不味すぎる。だから食べられない)


-Cette pizza est trop bonne.  (このピザはうますぎる→だから…?)は文法的に変。

 


でも…言葉とは分からないもの。もしかしたら自分が間違った理解の仕方をしているのかもしれない、意外な事実が隠れているかもしれない、と思ったので早速調べてみました。

 

まず手元にある「ロワイヤル仏和中辞典・第2版」で"trop"を見てみると…


“ tropをtrèsの意味で用いるのは17世紀まではふつうであったが、現在では親愛の意を込める場合か儀礼的文句に限られる。”

 

そして"Académie française"のサイトを見てみると、

 

Au Moyen Âge et jusqu’au XVIIe siècle, trop s’employait fréquemment avec le comparatif.
Dans des emplois vieillis ou littéraires, on rencontre encore trop utilisé avec le sens de très ;quelques formes comme vous êtes trop aimable, vous êtes trop bon, se sont maintenues dans l’usage.
Mais en dehors de ces tours figés, on évitera systématiquement de substituer trop à très et, plus encore, de faire de trop un adjectif signalant une qualité si incroyable qu’il semble impossible de l’énoncer.”
(中世から17世紀までtropは頻繁に比較と一緒に使われていた。古い用法、または文学の中ではtrèsの意味でtropが使われている例を見つけることができる。"vous êtes trop aimable"や"vous êtes trop bon"のような言い回しは慣用的に使われていた。
しかし、これらの決まり文句以外では trèsをtropで代用することは、まして"trop"を、あまりに想像を超えていて言葉ではとうてい言い表せそうにない、というような意味の形容詞として使うことは避けましょう。)

                   稚拙な翻訳、お許しを。

 


とあるので、やはり濫用は避けた方が良いようです。


時々、感動を込めて"trop"を使えばそれなりに効果がある、というものだけどあまりに機械的に全てを"trop"にしてしまうとちょっと聞き苦しくるかな、と思います。

 

今、若い世代では本当にこの"trop"を"très"の代わりとしてあらゆる場面で使うことが多くなったけれど、さすがにテレビのニュースや政治家が使うところは見ませんね。


もう一つ、"trop"を使うことによって本来なら,

C'est très bon./C'est délicieux./C'est excellent./C'est succulent./C'est magnifique...

など、色々な表現が可能なところを、C'est trop bon. で全て済ませてしまう、言葉の貧困化にもつながっている…ような気もします。

 

一頃から使われ始めた

C'est cool!!!

と同じですね。

C'est joli, magnifique, formidable, génial, fantastique, unique, original, intelligent...etc

これらの表現全てひっくるめて一言 "C'est cool."

 


でも…考えてみたら今時、日本語でも
「きゃー、この犬、可愛すぎる!!!」、とか
「これ、うますぎ、やばい!」

とか言ってますね。

やはり言葉は時代と共に変化する…か。